小澤みゆき「PRのための『周辺』原稿」
担当する目次
16.パブリシティ:広告/宣伝/販促/PR/SNS/検索/効果測定
プロフィール
1988年生まれ。東京都在住。会社員。編著に『かわいいウルフ』(亜紀書房)。近著に「ウルフ・チャット」「文芸という海――メジャーとインディペンデントの波間で」(「群像」掲載)、「若さの予感」(「しししし」掲載)。すきなアイスは「チョコミント」。
初稿
※こちらは「初稿」です。「完成稿」は購読者限定です。購読チケットはSTORESから。
はじめに
本の企画やPRも立派なモノづくりのプロセス。部数の獲得、制作費の回収、原稿料や印刷費の支払い――創作活動を持続可能なものにするためには、読者の認知獲得やメディアへの売り込みといった、本の「周辺」に位置する数多くの原稿が必要になる。
企画〜制作初期
- 企画書
- 執筆依頼書
- 企画書の内容に加え、その人に原稿を依頼したい理由を丁寧に書く。
- 納品物の広告文への流用を想定し、二次利用や著作権についても事前に確認。
- 複数人で編集・制作を行う場合、告知の足並みを揃えるため、情報解禁スケジュールもあらかじめ共有する。
- 依頼メール
- ファーストコンタクトがSNSやメッセージングツールでも、証跡を残すためにメールで依頼する。
制作中
- SNSでの告知
- 告知とプライベートを切り分けたいなら、PR用アカウントを作成。
- すぐに出すべき情報と、後日でよい告知がある。同人誌の存在そのものや企画趣旨はどんどん発信しよう。
- 企画趣旨が多数の人々に伝わり、制作も進んできたら、徐々に記事内容や寄稿者の情報も公表する(3)。
- タイトルや詳しい目次は、ウェブ予約の開始や同人誌即売会の情報解禁に合わせて発表すると効果的。
- メインビジュアル
- プレスリリース
- A4 1、2ページで制作(6)。
- メディア取材を狙う資料だが、その通りになることはあまりない。しかしメディア認知は重要だし、献本にも使える資料なので作っておこう。
- 販路が決まったら、通販・書店・同人誌即売会等の入手方法も記載する。
- ランディングページ(LP)
- 本に関する情報が網羅されたウェブサイト。手のこんだサイトを作る必要はなく、プレスリリースの掲載情報の転記で十分。コーディング・デザイン不要のウェブサービスを活用する(7)。
- 商品購入ページ
- ネット通販をする場合は、購入ページをLPとして活用できる。
- メディアリスト・献本先一覧
- 興味を持ってほしい媒体の問い合わせ窓口にプレスリリースを送る。媒体がリリースを受け付けていない場合は、その企業のコーポレートサイトから連絡する。メール本文にも簡単に企画趣旨を書いておく。
- 見本誌ができたら、冊数の許す限り印刷したリリースともに献本しよう(8)。
- リリース送付メール
- SNSにリリースを画像投稿するのも効果あり(9)。
- スタッフリスト
- 執筆者や関係者(デザイナー、イラストレーター、校正・校閲、その他協力者)の名前を書籍の奥付とLPに記載。
発売後
- 取り扱い書店リスト
- 店舗名とサイトやSNSのリンクを都道府県別にLPに掲載すると親切。
- 即売会販促用素材
- ポスター
- ブース番号を目立たせて見つけやすくする。
- 立ち読み用見本誌
- 即売会によっては必須。
- POP
- 通行人の目を引くキャッチコピーがあるとよい。
- 特典
- 即売会に足を運ぶ読者にとって購入の動機づけになる。
- ポスター
- 効果測定シート
- SNSやサイトの各種指標のまとめ(10)。
- 告知の広がりを把握するには、LPのPVとSNSのエンゲージメント数が役立つ。
- 告知のタイミングと日別のコンバージョン数の関係を確認し、どのPR施策が読者に刺さったかを振り返る。
- SNSのインプレッション数(表示回数)はあまり参考にならない。関心の薄い人々にも表示されるため。
- FAQ
- 想定質問への問いをまとめておくと後で楽(制作の動機・コンセプト・ジャンルに対する意見など)。
- 販促イベント企画書
- 打ち合わせ議事録や当日の段取りも同じ資料に記載しておくと、関係者間での共有がスムーズ(11)。
さいごに
すべてを最初からできていたわけではなく、他の同人誌に多くを学んだし、他業界のプレスリリースや企画書も参考にした。また、同人誌と商業書の両方を経験して、PRにおける出版社の存在はやはり大きいと感じた。取次流通の営業実務やメディア対応、献本作業は基本的にまかせられる。もちろん作者による(主にネットでの)積極的な情報発信の大切さは変わらない。大切なのは一人でも多くの読者に手にとってほしいという熱意と、「周辺」の原稿もモノづくりの一環だと楽しむ気持ち。売ることは、作ることと同じく喜びに満ちた行為なのだから。
TOPページ
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スタジオジブリプロデューサー・鈴木敏夫氏の働き方が参考になる。/『「もののけ姫」はこうして生まれた』(製作:徳間康快、企画:鈴木敏夫、2001、ウォルト・ディズニー・ジャパン株式会社) ↩
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RTやいいねが100件を超えると、ある程度の人数に期待・認知されていると実感できた。Story Design house株式会社の公式note掲載のインタビューでも詳しく語っている。 ↩
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サムネイル画像だけならGoogle SlidesやPowerPoint、ペイントなどで作成可能。 ↩
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OGPはOpen Graph Protocol で、ウェブサイトの情報をSNSでシェアする際に必要な情報。HTMLタグとして記述すると、リンク画像やページタイトルが展開され、クリック率の向上が期待できる。Twitter / Card Validator Facebook / シェアデバッガー ↩
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独立系の出版社や取次がリリースをウェブサイトに公表することもある。例えば本の販売代行を行うH.A.B.では、「注文書」と呼ばれる書店向けの営業資料をウェブで公開している。また、河出書房新社はしばしばPRTimesで新刊告知のプレスリリースを配信している。 ↩
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文芸誌への献本が編集者の目に留まり、寄稿依頼を頂いたことがある。売上に直接つながったわけではないが、これも「周辺」原稿だろう。 ↩
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告知ツイートのアクティビティのキャプチャ画面を残すだけでもよい。ウェブサイトのアクセス解析はGoogle Analyticsが一般的だが、noteやはてなブログといったCMSでも独自の簡易ツールを提供している。 ↩
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書類共有にはGoogle Docsをおすすめする。Wordやテキストファイルを複数人でやりとりするとバージョン管理ができないし、情報が漏れる恐れもある。出版は立場の異なる複数の人々が関わる共同プロジェクトなので、情報へのアクセスのしやすさや透明性はとても大切だと思う。 ↩