作家の手帖

じぶんの「つづき」を書こう。

poroLogue「原稿料はどう決める?――Webメディアの副編集長が作り上げた『事業と財務』の対話を促す経理の仕組み」

担当する目次

18.財務・会計:確定申告/貸借対照表/損益計算書/キャッシュフロー計算書/製造原価報告書

プロフィール

早稲田大学文化構想学部卒業後、日立グループにて全社の業務プロセス改善プロジェクトに従事。退社後、株式会社Moguraにてメディア事業、VTuber領域統括等を担当しつつ、経理財務領域の運営も担当した。

初稿


「作家の手帖」発足から1週間。執筆者募集のかたわら、事業と財務の両面から原稿料について語れる方を探していたところ、株式会社Moguraの永井良友さん(現・ MoguLive副編集長)から「協力できるかもしれません」とお声がけいただき、早速編集部は通話取材を行った。これはその速記をもとに作成した編集記事である。当日の言葉づかいや掛け合いの復元ではなく、発言の骨子を要約し、再構成した。業界紙の取材記事っぽいハードボイルドな感じに仕上げてみたかったからである。


取材

2021年04月23日(金)19:00-20:00@Google Meet 出席:永井、笠井(聴き手)、小澤(書記)

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Webメディアの原稿料・利益目標の決め方は?

笠井 Webメディア運営において、原稿料はどう設定しているか。1記事あたりの制作費や目安作業時間を算出している?

永井 1記事ごと全てを個別に算出しているわけではない。「ニュース記事」や「インタビュー記事」など、カテゴリ毎に大まかに決めていく形がオーソドックスだと思う。


笠井 事業収支よりも細かい単位で考えることはある?

永井 事業単位ではなく記事単位で利益目標を設定するとしたら、相当なPVボリュームのある記事を制作する場合ならありうるかもしれない。Webメディアの場合はGoogle Adsense等の広告収益のほか、クライアントから受注する記事広告など複数の収益源があり、それらを複合的に考慮し利益目標を決めていく。ゆえに必ずしも「この記事単体でいくらの利益を目指す」といった指標を設定しているわけではない。記事PVや掲載価値など、事業部門が重視する指標と収支の関係を理論づけできれば、記事別の利益目標を作れはするとは思うが。


笠井 官公庁のように、社内に報酬体系や謝金等級がある?

永井 記事の種別ごとに、業界水準等を参考に決めている。それを基本に、たとえば卓越した知見・経験を持つ記者の方であれば報酬額の調整が発生することもあるだろう。


笠井 編集報酬も厳密には決めていない?

永井 業務委託の編集者であれば、記事何本編集でいくらではなく一日換算で金額を決めることはある。コンサルタントや弁護士の時間単価に近いかもしれない。


テキストデータはストック型資産ではないのか?

笠井 原稿料は、会計科目ではどの仕訳になる?

永井 執筆依頼をするなら外注費、内製するなら人件費とするのが通例ではないか。税務上は、原稿執筆依頼は源泉徴収の対象となる役務の提供に当たる。 とはいえ、笠井さんの想定質問にあった「テキストデータは無形固定資産ではないか」という指摘は新鮮だった。原稿を資産計上すると税務署に叱られそうだが(苦笑)、Webメディアに掲載されたテキストは、将来一定期間にわたって利益を生み出す源泉となるもの。実感的にも資産だとは感じる。ほか工業簿記の比喩で、執筆中の原稿を「仕掛品」、完成原稿を「製品」などと解釈してみるのは面白いと思う。


笠井 メディア運営以外にも事業ポートフォリオを組んでいる企業が存在する。メディア運営における、財務上の比重と、企業ブランド上の比重についての考え方はどうか。

永井 企業によるのではないか。メディア事業単体の経営成績を重視する考えもあれば、メディア運営を他事業の収益化に欠かせない投資とする考えもある。たとえば単体では利益は少なくとも、代わりに読者数を増やし、得られた認知をもとに他の事業に送客するなど。

笠井 初期のほぼ日が手帳で収益化していたように。


笠井 仮にメディア単体の収益性を上げようとすると、記事の掲載方針も変わる?

永井 ひとつは、長期間・一定以上の人数に読まれる記事を効率良く貯められるテーマを選定することで、ストック型の運営に近づくのではないか。より無形固定資産に近いテキストデータの作り方。あるいは、記事単品の拡散力に強みがあるなら、短期間で一気にページビューを稼ぐ「バズ記事」を中心としたフロー型の運営も考えることができる。

笠井 メディア運営にあたって、ストックとフローのどちらに重きを置くかで、メディアの性格が変わるのだろう。


事業をサポートする「攻めの会計」

笠井 運営当初と、組織拡大後では状況も変わるだろうが、執筆者には何をどこまで決めて依頼している?

永井 執筆者のレベル次第。大まかな要望だけを伝えるだけのこともあるし、こちらから構成案や、どんな人にどう伝えたいかなどの要望リストを作って伝えるなど。まだ書き慣れていない執筆者の原稿は細かく赤入れするか、こちらで引き取って完成稿まで仕上げることもある。迷いながらリテイクを重ねて書いてもらうより、まずはお手本を示す意味でも。


笠井 原稿料を支払うとき、必ず執筆者に伝えたほうがよいことは?

永井 特に原稿依頼に不慣れな人を対象に、Excelで関数を入力した請求書の記入フォームを渡す。源泉徴収税や消費税などの法令に沿った金額を自動的に算出できる。執筆者ごとに自由書式にすると、誤計算や再発行が生じる場合があるため。


笠井 執筆者に配慮することで、社内の仕事も減らせるわけか。

永井 私は事業推進に加えて財務部門の運営も兼務していた。そのため個人的な考えだが、会計部門は各事業部の経理処理をサポートしつつ、事業運営の助言もする体制が理想だと思っている。たとえば事業担当と財務担当で数値を一緒に見ながら、事業毎の数値目標の設定支援をするなど。  また、請求書発行などの事務処理は、事業部門のコア業務ではない。忙殺されると担当者も処理をため込んだり、請求漏れなどが発生してしまう。そのため管理部門側から声掛けをしつつ、合わせて現状のデータ上では見えにくい数値・指標や事業部内の細かな文脈も聞くようにしていた。管理部門と事業部門が密に対話できるようになれば、互いを理解しやすくなるからだ。


事業管理に大事なことはどれも働きながら学んだ

笠井 いわば攻めの会計。なぜその体制を作り上げようと思った?

永井 つきつめれば、私に事業と経理のどちらも経験があったからだろう。ともすれば経理は事務・数値処理だけをするコストセンターだと見られるが、事業と財務の双方を理解し、数値設定や業務改善を支援することができれば、付加価値を産むことができる。


笠井 専門知識はいつ学んだのか。働き始めてから?

永井 前職で日立グループのIT部門に勤務していた時、会計に関わるシステムの構築・導入支援をしていた。そこで大まかな流れや基本用語を学べた。本格的に簿記の専門知識を学んだのは現職で経理・財務を扱うようになった頃。事業推進と財務を兼任しながら実践で学んだ。


笠井 会社の成長とともに知識を増やした?

永井 いまでは月次・年次決算の取りまとめのほか、キャッシュフロー管理や税理士とのやり取り、財務分析・年間数値計画の策定、経理・財務に関することは一通り経験した。 自分の中での事業と財務で作業ボリュームを分けて考えた際、定常的な財務作業のボリュームは毎月20~30%程度。クラウド会計ソフトの導入により、作業の多くは効率化・自動化されている。事業別の売上管理や請求・支払処理もオンラインで完結しているから、自動化できない仕事を経理担当が行い、その結果を受けて私が微調整する。決算業務の支援も顧問税理士に依頼しており、その結果をチェックする体制。


笠井 会計システムの知識はどう学んだ?

永井 会計ソフトの指示に沿って設定する程度なら、個々の機能は1日?2日かければ独学できる。例えばAmazonやyahooといったECサイトは、代表的な会計ソフトに対する売上データ連携機能を提供しているから、その設定を行う。また最近は会計ソフトの知識がある税理士もいるため、有識者に聞くなど。


笠井 専門資格も働きながら取得した?

永井 簿記資格は取得した。3級を取れば会計実務の初歩は理解できる。2級は連結決算なども範囲に含まれるため、必須かどうかは企業規模による。ただ、いずれにせよ資格取得で専門知識や基本ルールは学べるが、実際の経理業務プロセスまでは学べない。


自動化とアート――テキストメディア運営の未来

笠井 ゲームになぞらえると、世界観は学べるが、攻略法は学べない。

永井 まさにその通り。インハウスの財務担当者には、専門知識をベースにしつつ組織づくりの能力が求められる。各経理作業を社内・社外の誰に頼むか。業務プロセスのどこで、どのシステムを使うか、なにが経営判断に必要な数値で、どうまとめるか…など。


笠井 今後、知識を増やすとしたら、より実践的で、より経営管理に近い分野?

永井 たとえば中小企業診断士などの資格勉強をしたり、「企業会計(中央経済社)」のような、実務者向けの専門誌を読むなどだろうか。また、ITに習熟することも重要だ。個人的な会計プロセスの理想は「自動的に月次・年次決算の結果と、経営に必要な財務分析結果が出てくる」ということだと考えている。DXが叫ばれる昨今、遠くない将来に、さらに会計プロセスの効率化が進むだろう。それに備えて、自前でシステム設計するのか、すでにあるITサービスを組み合わせるのか。見極められるといい。


笠井 今の永井さんから、かつての永井さんに「この知識は身につけて」と助言するとしたら?

永井 集約した財務数値を分析結果としてまとめ・改善提案まで持っていくためのスキルだろうか。創業間もない企業での経理プロセスにおいては、まず「数値を正しく集める」事が第一だ。だが次第に「集めた数値を意味づけし、財務分析結果としてまとめ、経営に有益となる改善提案を行う」という一連の流れが重要となるからだ。


笠井 「30年後も読み継がれるテキストメディア」を想像するとしたら?

永井 テクノロジー分野だと、技術水準がまったく変わっているだろう。「お金」のような普遍的なテーマでも、資産運用の方法から変わっているだろう。30年後も読み継がれるテキストメディアがあるとすれば……それはやはりアートではないか。青空文庫がその例かもしれないが。ただ、私たちがインターネット黎明期のテキストメディアを懐かしいものとしてほほえましく読むように、そのテキストの読まれ方は変わるのだろうと思う。(了)


制作・企画:「作家の手帖」編集部

※こちらは「初稿」です。「完成稿」は購読者限定です。購読チケットはSTORESから。



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