作家の手帖

じぶんの「つづき」を書こう。

関口竜平「書くということ——ただ『置く』だけではない、<メディア>のひとりとしての書店」

担当する目次

15.流通・販売:店舗在庫/即売会/EC/電子書籍/ISBN/梱包・発送/納本・献本

プロフィール

本屋lighthouse店主。1993年2月26日生まれ。20歳のころから卵と乳がアレルギーになりました。

初稿

はじめに

 本の帯に載っている書店員のコメント。その書き手に「原稿料」が支払われることはほとんどない。

 このことを知って驚いたあなたはその感覚を大事にしてほしい。驚かなかったあなた、つまり、おそらく書店か出版社で働くあなたに向けて、いまから「書店員」として「原稿」を書いていく(もちろん一読者のあなたにも)。

 出版業界以外の人のために、大まかに説明したい。出版社は刊行前にプルーフやゲラ(=書店員向けサンプル)を書店員に読んでもらい、感想や推薦の言葉を募ることがある。本の帯に載っている書店員のコメントは、主にそこから抜き出したものだ。このプルーフ/ゲラは挙手制でもらうこともあれば、出版社から送られてくることもある。それを書店員は読み、コメントを返し、場合によってはそれが採用されている。

 つまり「プルーフ読み→コメント返し(※以下「プルーフコメント」と表記)」は基本的には書店員の能動的な行為であるが、だからといってそれが無報酬を正当化することにはならない。

1. 書店員も「書き手」である

 本を読みコメントをする=文章を書くという行為は、明らかに創作である。書評家が書評を書いて原稿料をもらうのと同様だ。少なくともそのコメントが出版社によって「販促目的」で利用されるのなら、書き手が対価=報酬を要求する権利のある成果物であることは明白だ。しかしその意識が出版社にも書店員にもないことが多い。故にこれが搾取の一種であることに気づいていない。なお、献本は報酬と認めてはならない。「プルーフコメント」という一連の行為に数時間を要しているのだから、最低賃金で換算しても1万円ほどを請求してもおかしくはない。もう一言添えておくと、これを通常業務内に行なえる書店員はほぼいない。多くが休憩時間や家で行なっている。要するに時間外労働だ。

2. 「コメント」が「配本」の条件?

 出版業界では書店が発注した冊数がその通りに入荷されないことがままあり、「調整出荷」や「減数」といった言葉で常識化している。故に出版社が用意するコメント記入用紙兼発注書には「◯月◯日までにコメントを返していただければ発注数通りに出荷します」という文言がよくある。しかしこれ、裏を返せば『コメントを返さない場合は配本0の可能性もありますよ』ということだ。しかもコメントは無償で使われてしまう。もはや「人質」である。献本を報酬と認めてはならない、というのはここにも繋がる。そもそもが対等な関係ではないのだ。さらに、この場合においては書店員は能動的にプルーフコメントをしているわけではなくなっている。もう一度言おう。搾取である。

3. 会社に黙ってやる仕事?

 しかし書店側にも問題はある。仮に社外から報酬をもらう場合、「個人」として受け取るべきなのか「会社員」として受け取るべきなのか、という問いが生じる。書店員は書評やコラム執筆、選書などを所属会社以外から受けることがあるが、その多くは「個人」として受けている。人によっては会社に報告せずにやっている。その理由は副業禁止規定があるとか(これが副業になるというのもおかしいが)、あるいは「会社に搾取される」のを恐れて、といったこともある。信じられない話だが、出版社主催の店頭飾りつけコンクールの入賞商品を、担当した店舗やスタッフから会社が奪い取ることもあるらしい。となると会社を通して書き仕事を受けた場合、報酬がすべて会社に持っていかれる可能性もある。ならば黙ってやるしかない。

 しかしそうなると、出版社としてはそれなりの額を「黙ってやっている」相手に出すのは不安になる。源泉徴収や確定申告のことを熟知している人間は書店員に限らず少ないからだ(故に回避策として原稿料=図書カードとしているところもある)。となると「プルーフコメントにも報酬を」という主張は、書店自身の制度/体質的な壁によって阻まれることにもなる。さらに書店現場の多くは非正規雇用であるため、「会社に要求する」という行為のハードルも高い。

 プルーフコメントをしないと配本がない(かもしれない)、しても無報酬&配本が増えてたくさん売っても給料は上がらない、そもそもが時間外労働。もう一度、いや言い直そう。奴隷である。出版社に対して、そして所属会社に対して。

おわりに

 本稿を読み、あなたのなかに何かしらの「意識」が少しでも芽生えたのであれば幸いである。真剣に書き、物事を問い、そうして生まれた成果物が読み手や社会に対して何かしらの影響を与える。そしてその対価として書き手は報酬を得る。このまっとうな循環を加速させたい。それが本の、そして私たちが生きる社会の未来を明るくすると確信している。実際に、とある「ひとり出版社」から報酬ありのプルーフコメントの依頼がきている。本稿に書かれた現実は絶望的なものに思えたかもしれないが、決して光は途絶えていない。

※こちらは「初稿」です。「完成稿」は購読者限定です。購読チケットはSTORESから。



TOPページ